清酒

酒米と精米~精米が生み出す綺麗な酒~

目次

Introduction

 精米歩合という言葉を聞いたことがあるだろうか。清酒を飲む方なら見かける機会も多いだろう。精米歩合とは簡単にいうと、米を削った結果、どの程度残ったのかという数字である。例えば、精米歩合90%だと10%を削って、90%が残っているという意味である。

 吟醸や大吟醸を名乗るには米を一定以上削らなくてはいけないことが決められており、吟醸では40%、大吟醸では50%以上米を削らなくてはならない。精米歩合で表現すると吟醸では60%、大吟醸では50%以下である。普通酒や純米酒では精米歩合を気にする必要はないが、表示している銘柄が多いように感じる。一般的に、精米歩合と清酒の品質は相関すると考えられており、この考えは消費者にも広がっているものと考えられる。

 本稿では、なぜ、精米歩合と品質は相関するのか、そして心白と精米歩合との関係について解説し、最後に個人の感想として品質の良いとされるされる清酒についての一意見を述べたいと思う。

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酒米の特徴

 酒米の特徴を尋ねられた時、あなたは何と答えるだろうか。

酒造りに使われる酒だけでは不十分である。酒米は一応食べることもできる。ただ、コシヒカリの方が何倍も美味しいので食べる気にならないだけである。

 このコシヒカリと比較したとき、酒米には大きな特徴がある。

 まず、大粒であることである。米の大きさを測る指標として、「千粒重」というものがある。その名の通り千粒集めたときの重さである。食用米が20 g程であるのに対して、酒米では30 g程になる。

 次に、「心白」という構造である。これは米粒の中心部に存在する白色不透明の部分のことである。酒米の特徴の中で、最も重要だと考えられているものである。この心白の部分はデンプン粒が荒いというか詰まっていないとのことである。電子顕微鏡での観察では心白部分はデンプンの粒子間の隙間が大きいことが報告されている。ちなみに、良く酒米の代表的な存在として山田錦が挙げられるが、その理由として心白の形状が理想的で精米歩合の高い精米ができるとのことである(出典不明)。

 

 また、余談ではあるが、酒造りのために米を蒸す際、良く蒸された米の条件というのが外硬内軟である。つまり、芯がなく、グズグズにならないものが良いということである。この条件を生み出すのに必要なのが心白であるとのことである。

なぜ米を削るのか

 清酒製造にとって酒米の精米はとても重要な作業である。なぜなら、この操作は米の表層に多く存在している粗タンパク質、ミネラル、脂質を効率よく除去できるからである。粗タンパク質とはタンパク質のほか、アミノ酸、アミン、アンモニアなどの窒素を構造に持つ物質をまとめたものである。アミノ酸は雑味や着色の原因となる。また、脂質は酵母のエステル生成を妨げるとされている(エステルについてはこちらを参照)。

 これら雑味の原因物質の除去はクリアな味わいで香りの高い清酒を作るうえでとても重要な作業である。ただ、精米をするということは原料を削り、糠として排出するということであり、精米歩合が高くなるほどコストが増える。そのため、「精米歩合の低さ=高品質=高価格」というのが清酒業界では一般的に成り立つ。

 さて、高品質な清酒を作るためには可能な限り精米歩合を低くするのが良いが、削れば削るほど米は割れやすい。特に酒米は心白というデンプンの詰まっていないもろい部分を持つ。そのため、普通の精米方法(米が丸い形になるように削る方法)では丸い心白を持つ米しか精米歩合を低くできない。そのため、丸い心白を持つ山田錦が注目されるのである。

 ただ、最近では扁平精米と呼ばれる精米方法が再注目されている。これは米の形を残したまま削っていく方法である。イメージとしては一般的な精米方法は丸める精米方法なのに対し、扁平精米では削るというか削ぎ落すというか薄くするような、平べったく削る精米方法である。

 扁平精米の特徴として、心白が縦に細長い酒米でも低い精米歩合を実現できること、そして胚芽が残るということがある。この胚芽に含まれるミネラルなどの影響により、発酵やアミノ酸の酵母内への取り込みが促進されることが明らかになっている。アミノ酸は高級アルコールや酢酸エチルなどの香気成分に変換される成分であり、扁平精米した酒米を使用した清酒ではこれらの生成量が高い傾向があるとのことである。また、発酵中に工場が死滅しにくくなり、ジメチルトリスルフィド(DMTS)が生成しにくくなるという効果もある。

精米による成分の変化

 精米は清酒製造に様々なメリットをもたらすが、米の成分は実際どのように変化するのだろうか。

 米に含まれる成分は層ごとに偏っていることが明らかになっている。これは食用米でも酒米でも同じようである。実際に精米による成分変化を確認してみると、デンプンはほぼ均一に存在している。そのため、精米歩合が下がるにつれて対玄米比で割合が上がっていることが分かる。一方ミネラル、脂質は精米歩合80%で大きく減少していることから、表層に多く存在していることが分かる。タンパク質は一直線に減少しているので均一に存在しているように見えるが、この図では対玄米比での割合なので、比較的表層に多く存在していることが考えられる。

最後に個人の感想を添えて~精米と清酒~

 以下、今回の記事をまとめている中で感じた個人の感想である。

 日本酒は清酒と呼ばれるくらい清らかな酒である。それは透き通る水のような見た目から来ていることは想像に難くない。実際、清酒の官能評価において着色は原点となるし、水のように無味無臭で特徴の無い酒はそれはそれで加点になる。官能評価で高い点数を得るという観点から考えると、雑味が少なく、色の薄い、透き通った酒を作らざるを得ない。

 個人的には官能評価で高い点数を得るというのは悪いことではないが、皆が目指すものでは無いと考えている。酒類総合研究所が毎年行っている全国新酒鑑評会は全国規模の新酒鑑評会として一定の地位を得ている。この鑑評会は”その年に製造された清酒を全国的に調査研究することにより、製造技術と酒質の現状及び動向を明らかにし、もって清酒の品質及び製造技術の向上に資するとともに、国民の清酒に対する意識を高めること”を目的としている。私はこの目的のうち、清酒の品質及び製造技術の向上に資するという部分については現状、役割を終えていると考えている。

 日本全国の清酒製造のレベルは十分に上がってきており、酒類総合研究所と日本酒造組合中央会に頼らずとも各蔵ごとに試行錯誤できるレベルまで製造のレベルは高まっていると考えている。また、清酒の消費量が毎年、確実に減っている現状において、良い酒は消費者が選ぶ段階に入っており、誰かが金賞だのなんだのを与えて表彰するものでもないと思っている。その意味において、清酒という分野そのものが消費者に選ばれていないことを自覚し、新しい清酒というものを創っていかなくてはならないと思っている。その点において、全国新酒鑑評会は清酒を消費者に選んでもらうことにおいて特段存在感を果たしているようには思えない。

 さて、全国新酒鑑評会への愚痴のような感想になってしまっているが、最後に一つ、個性的な酒を作っている酒蔵を紹介したいと思う。長野県塩尻市にある笑亀酒造である。以下のリンクはこの酒蔵の杜氏を取材したSAKE STREETの記事である。

https://sakestreet.com/ja/media/sakagura-shoki-shuzo-nagano

 この記事と今回のテーマである精米は直接関係はない。ただ、この酒蔵は味噌用の麹菌を使用し、わざとアミノ酸の量を増やす酒造りをしている。アミノ酸は清酒製造では邪魔者とされ、精米はそのアミノ酸を可能な限り削ぎ落すために行われる。そして、精米は不要な成分を可能な限り削ぎ落すことで発酵管理が簡単になるという側面もある。

 笑亀酒造の酒造りはあえて管理の難しい茨の道を行き、個人の作りたい酒を作っている。今後、このような新しい物差しを持った酒蔵がどんどん出てきて、日本酒のすそ野を広げ、活性化していくと嬉しい。

参考文献

・吉田直史ら:日作東北支部報, 51, p37-38(2008)

・矢澤  彌:生物工学会誌,100(1),p47(2022)

・柳内 敏靖ら:生物工学会誌,74(2),p97-103(1996)

・山崎 梨沙:100(3),p138(2022)

・吉澤 淑ら:日本釀造協會雜誌69(10), p645-650 (1974)

・令和3酒造年度全国新酒鑑評会

(https://www.nrib.go.jp/data/kan/shinshu/award/pdf/r03by_pre.pdf)

・味噌用麹で独自の日本酒造りに挑む森川貴之杜氏 – 長野県・笑亀酒造

(https://sakestreet.com/ja/media/sakagura-shoki-shuzo-nagano)

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Kana _発酵食品と微生物ch
学生の時は花酵母の研究に関わっていたこともあります。 一応修士号は取っていますが、今は研究はしていません。文字を書くことが好きで、ブログ、YouTubeで発信をチビチビしています。 youtube(毎週金曜日更新): https://www.youtube.com/channel/UCvhO8xU9VZFwfgjdtRpxlRA