ゼロからはじめる発酵微生物学の第1回は、微生物の概要について説明していきます。
内容としては微生物の分類、形態、大きさという忘れがちだけど基本的なことについて説明していきます。
シリーズ全体を通して、動画版も用意していますので、文字を読むのが苦手な方はこちらもご活用ください。
目次
introduction
発酵微生物学ということで、扱うのは身近な微生物になります。身近な微生物というのはざっくりカビ、酵母、乳酸菌です。今回の話題はこれらの微生物が生物の中でどのような立ち位置にいるのかということと、大まかな特徴です。
具体的には、分類、形態、大きさという3つの指標でカビ、酵母、微生物を比較し、外見的な特徴にどのような違いがあるのかを理解してもらうことがこの動画のゴールになります。
では、本題に入る前に、カビ、酵母、乳酸菌の特徴について簡単に紹介します。詳しい説明は次回以降の各論で解説していきます。
まずカビですが、酒造りや味噌、醤油に利用される微生物です。発酵で使われる他の微生物と比較してアミラーゼやプロテアーゼといった酵素の生産が得意です。
酵母も酒造りや味噌、醤油に利用される微生物です。酵母はアルコールを作り出すのが得意な微生物です。また、香り成分を作るのも特徴です。清酒や醤油の香りは酵母が決めるといっても過言ではありません。
最後に乳酸菌ですが、チーズなどの乳製品や糠漬けといった漬物にも利用される微生物です。動物性と植物性がありますが、これは乳製品など動物性の食品から分離されたものを動物性、糠漬けなどの植物性の食品から分離されたものを植物性と呼んでいるだけで、生物学的な分類には関係ありません。ただこの呼び方が広く浸透しているのはただ単に植物性という言葉がクリーンなイメージを与えるというマーケティング的な要素のためだと思います。
微生物の生物学上の立ち位置
生物の分類方法はいろいろなものがありますが、今回取り上げるのは三界説と三ドメイン説です。
三界説は生物を動物、植物、原生生物に分類する方法です。原生生物は目に見えない小さい生物全てを含むとても大きな括りです。微生物は原生生物に含まれますので、カビ、酵母、乳酸菌全てが原生生物に分類されます。
次に三ドメイン説ですが、これは真核生物、原核生物、古細菌という三つのドメインに分ける分類方法です。三界説は直感的な分類方法でしたが、三ドメイン説は細胞の性質で分類する方法です。詳しくは生物の教科書を読んでいただけると良いかと思います。
古細菌とは、原核生物と似た形態をしていながら、その性質は真核生物に近い微生物のことです。ここでは詳しくは解説しませんので、興味のある方は各自調べていただけると幸いです。カビと酵母は真核生物に分類されますが、乳酸菌は原核生物に分類されてます。このスライドはそれぞれのドメインが進化的にどの程度離れているかというのを簡単に現したものになります。これは真核生物と古細菌は比較的近いドメインですが、原核生物はその2つから離れたドメインというのを表しています。酵母と乳酸菌は似たような形態をしていますが、ドメインを考えると遠く離れた全く別の生物であるというのがわかります。
余談ですが、古細菌には極限環境微生物と呼ばれる変わった微生物が属しています。これらは海底火山の噴火口や温泉の源泉などの変わった環境、普通の生物では生きていけない環境で暮らす微生物です。これらの微生物には人間にとって有用な微生物もおり、新型コロナウィルスで有名になったPCRという技術の発展には高温の環境でも生きることができる耐熱性の微生物の酵素が大きく関わっています。
微生物の形態
カビは糸状の形態をしています。一言に糸状といってもマット状に広がるものとふわふわとした綿毛のように広がるものがあります。
酵母は種類によってさまざまな形態のものがあります。食品に利用される酵母は卵形をしていますが、他にも球形、レモン型といった形を撮るものもいます。また、栄養が少なくなり、飢餓状態になると偽菌糸と呼ばれる糸状に見える状態を撮るものもいます。
乳酸菌は球やソーセージの形をしています。
大きさの比較
このスライドではカビの大きさを基準に酵母と乳酸菌の大きさを比較したものです。カビがとにかく巨大でスライドいっぱいに広げても酵母や乳酸菌が小さくなってしまいます。
というのも、カビは多細胞生物で、多くの細胞で構成されているのに対し、酵母や乳酸菌は単細胞生物なので、比較した際にどうしても小さくなってしまいます。とはいってもカビの細胞はかなり大きいですが。
よく言われるのが、カビの分生子と酵母の大きさがほぼ同じということです。分生子とは植物でいうところの種のことです。実際に顕微鏡で見てみると、カビの分生子は酵母のように見えないこともないです。多分慣れていない人は同じように見えると思います。そして、乳酸菌はさらに小さいため顕微鏡で見るのは難しいです。みなさんが小学校で使ったようなお馴染みの光学顕微鏡では無理です。酵母と乳酸菌では形は似ていても大きさが全然違うことを理解していただけたと思います。
参考文献
・野白喜久男ら編:改訂醸造学, 講談社サイエンティフィック, 1993, p2-10
・藤本滋生. “インドネシアにおけるキャッサバの利用形態.” 南海研紀要 3.2 (1983): 75-85.
・小泉武夫編:発酵食品学, 講談社, 2012, p182