麹菌を含む糸状菌は様々な二次代謝産物(指針の生育には直接関係のない物質)を生産することが知られています。代表的な例としては抗生物質であるペニシリン、血中コレステロールを低下させるロバスタチン、成長活性ホルモンであるジベレリンなど様々な有用物質があります。その一方でアフラトキシンやオクラトキシンといった毒性物質(マイコトキシン)を生産します(麹菌ではその生産能力を失っており、国際的に安全性が認められている)。
Aspergillus oryzaeが生産するコウジ酸は美白成分として化粧品に使用されるなど一般に広く知られる二次代謝産物です。今回はこのコウジ酸について触れたいと思います。
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コウジ酸とは
麹菌が生産する酸性物質のことです(そのまますぎて捻りがない…)。杜氏の手が白くてきれいという話を聞いたことはありますか?この経験則から日本酒醸造の過程で使用される麹に肌にいい効能を持つ成分があるのではという考えから発見された物質です。美白成分として有名で化粧品に使用されています。食品に使用される麹菌由来なので安全であるというイメージを消費者に与えやすいのかもしれません。昔はもっと押されていた成分だと思いますが、最近はあまり聞かなくなりました。
コウジ酸の特性
コウジ酸の有用性はチロシナーゼ阻害作用です。簡単に言うと肌のシミの原因物質を作る酵素、チロシナーゼの働きを抑えます。
この酵素は紫外線などの刺激を受けるとこの酵素がシミの原因であるメラニンを合成します。この酵素の働きを抑えることで結果的に美白を促進しています。阻害作用を詳しく説明すると、麹酸にはキレート作用(金属原子と結合する能力)があり、酵素反応に必要な金属イオンを奪うことで反応を阻害します。
コウジ酸を肌に塗布すると新しいシミはできなくなり、すでにあるシミは新陳代謝によってなくなります。これが美白作用の正体です。
他の美白成分としてビタミンC、アルブチン、トラネキサム酸などが知られています。これらもチロシナーゼを阻害したりその他のメカニズムを機能不全にしたりすることで美白作用を実現しています。
コウジ酸の発がん性
コウジ酸は発がん性のため使用が中止されていた時期があります。2003年から2005年まで厚生労働省の勧告で使用が中止されていました。
麹酸の発がん性と遺伝子毒性は微生物やラットの実験で明らかになった事実です。しかし、発がん性が指摘された実験は人が通常使用する範囲を大きく超えており、化粧品などの通常使用での発がん性はほとんどないとされています。
コウジ酸は発酵食品に含まれている?
名前で誤解する人が多い気がしますが、コウジ酸は米麹に含まれていません。あくまで麹菌が生産する酸性物質なのでコウジ酸という名前が付けられています。なので杜氏さんの肌が綺麗なのとは関係がありません(清酒には肌の保湿に関与する成分が含まれていることが分かっているのでこれが理由だと個人的に思っています)。
コウジ酸は培養3日目程度から生産されることが分かっています。一般的に清酒や味噌、醤油で使用される麹は種付け(培養開始)から1日半程度で出麹(培養終了)となるのでコウジ酸は含まれません。
コウジ酸は産業的に有用なためその生産メカニズムが研究されています。しかし、まだまだ謎多き物質なのです。
コウジ酸生成に関する遺伝子について少し紹介したいと思います。今のところコウジ酸はkojA(麹菌生産酵素の遺伝子)、kojR(kojAの発現を調節する遺伝子)、kojT(コウジ酸を菌体外に排出するタンパク質の遺伝子)の3つの遺伝子によって生産されることが分かっています。しかし、実際にこれらの遺伝子を活性化する因子が数多く存在し、どのような経緯で生産するのかなぜ生産するのかは謎のままです。また、出発物質も分かっていません。
最後に
コウジ酸はとても有名な物質で、発見から100年程度がすでに経過しています。しかし、その生産メカニズムは謎の部分が多いです。いまだに遺伝子や合成経路の研究がされている興味深い物質です。
これからも研究が進み、コウジ酸以外の二次代謝産物との関係や、なぜこの物質を作るかなどの解明が進むことを期待しています。