香気成分

乳酸菌のつくる乳製品の香り

目次

Introduction

 乳酸菌の主な役割として、乳酸を生成し程よい酸味を食品に与え、保存性を高めることがあげられる。また、タンパク質や乳糖を分解し、栄養性を高める効果もあり、多くの食品に利用されている。

 他の発酵食品を見てみると、微生物が香気に関わることがある。清酒であれば酵母は香気成分に大きな影響を与える要素である。乳酸菌も乳製品や味噌、醤油において香気にかかわる重要な要素とされている。

 本稿では乳酸菌に最もスポットがあたる乳製品において、どのような香気成分があるのか、それに乳酸菌がどう関わるのかを紹介したい。

乳製品特有の香り

 乳製品の香りは乳酸菌の発酵の過程で生み出される。乳製品はバター、ヨーグルト、チーズなど様々なものがあり、それぞれを特徴づける成分も存在する。以下に共通する成分とそれぞれの製品に特徴的な成分を示す。

 これらの成分は原料の生乳中には存在せず、製造の過程で生成する。特に共通する成分として挙げたものは乳酸菌が乳酸やクエン酸から生成するものである。

 特に、ジアセチルとアセトインは古くから乳製品の特徴を決める成分として知られており、甘さを伴った軽い発酵感に寄与している。この2つは割合が4:1程度であればバター、3:1程度であればヨーグルトの風味を呈する。

 これらの香気成分は乳糖とクエン酸を出発物質とし、解糖系やピルビン酸などを経由して生成される。以下に生成経路の概要を示す。

 余談だが、風味を決める要素として、乳を出す家畜に与える飼料が影響することも知られている。例えば夏に牧草を食べている時期の乳と冬にサイレージなどを食べている時期の乳では風味が明らかに違うとのことである。

フレーバー開発における乳酸菌

 乳酸菌が良い風味を生み出すとなれば、その成分を工業的に生産しようというのが最近の流れというものである。特に、カロリーオフであったり、コストの削減のために乳製品の使用料を減らす製品に足りない風味やクリーミーさを付与するために使用されている。また、乳製品のミルクらしさというものはオフフレーバーのマスキング効果もあり、おいしさの増幅や品質の安定性に寄与している。これはコーヒーにミルクを入れると飲みやすくなることを考えると分かりやすいだろう。

 ミルク系のフレーバー素材の製造には製造には蒸留や抽出などの物理的手法、微生物や酵素反応を使用した生化学的手法がある。ただし、ナチュラル感やミルク特有にボリューム感を出すためには生化学的手法を用いるほうが有利である。物理的手法より生化学的手法のほうが比較的穏やかな条件で反応が進み、風味が壊れないからである。例えば、蒸留するためには沸騰するまで温度を上げなければならないし、抽出では酸や塩基にさらしたり、やはり温度が高いほうが早く成分が溶出するなど原料を激しい条件にさらすことがある。一方で生化学的手法では生物が生きられる環境、温度で反応を進めることができるため、原料に負荷をかけずに製造することができる。

微生物がつくる香りと原料

 本稿では乳製品において乳酸菌がつくる香気成分を紹介した。全く分野の違う食品ではあるが、清酒の香気成分はアルコールやアミノ酸が前駆体(原料)となっていたのに対し、乳製品の香気成分は乳酸やクエン酸が前駆体となっていた。このように、微生物を作用させても原料によってできる物質は様々である。では醤油や味噌で利用される乳酸菌はどのような香気成分をつくるのだろうか。次は似た微生物を使用した発酵食品で香気成分にどのような違いが出てくるのか調べてみたい。

参考文献

江本英治:Japanese Jouornal of Lactic Acid Bacteria, 24(2), p71-78

ABOUT ME
Kana _発酵食品と微生物ch
学生の時は花酵母の研究に関わっていたこともあります。 一応修士号は取っていますが、今は研究はしていません。文字を書くことが好きで、ブログ、YouTubeで発信をチビチビしています。 youtube(毎週金曜日更新): https://www.youtube.com/channel/UCvhO8xU9VZFwfgjdtRpxlRA