雑談

「サケビバ!」から考える「酒類業の健全な発達」

 最近国税庁主催のビジネスコンテスト「サケビバ!」が炎上した。この企画を国税庁がやる必要があるのかどうかは意見が分かれるところだろう。ただ、本来の趣旨とはかけ離れた批判がメディア、ネット上でされたことは確かである。

 本稿では国税庁の掲げる任務の一つである「酒類業の健全な発達」とは何なのか、そのために欠けていることは何なのかについて考えていきたい。

 (以下筆者の妄想であることに注意していただきたい。論理的であることも保証しない)

目次

「酒類業の健全な発達」とは何を指すのか

 まず「酒類業の健全な発達」という言葉の定義について考える。”健全”とはどのような状態を指しているのだろうか。理想とする状態について国税庁のホームページには記載がない。だが、国税庁には酒類指導官という職種があるとのことである。その仕事内容について引用する。

酒類指導官は、酒税の個別的な相談や調査を行っています。また、消費者利益の観点から、酒類の品質・安全性や、未成年者飲酒防止をはじめとする酒類の適正な販売管理の確保、公正な取引環境の整備などに努めています。

国税庁:国税庁の機構(https://www.nta.go.jp/about/introduction/shokai/kiko/kikou.htm#sake), 2022年 9月 4日 閲覧

 この内容を見るに、国税庁としては酒類の品質や安全性を軽視してまでアルコール飲料の流通量を増やしたいとは考えていないだろう。また、「未成年者飲酒防止をはじめとする」という文章の”はじめとする”には飲酒に適さない人物、例えばドライバーやアルコール依存症の患者が含まれることが窺える。このような飲酒に適さない人物にまで酒類を販売するのは国税庁にとっても本意ではないだろう(知らんけど)。つまり、ここでの”健全”とは「品質・安全性を保ちつつ、適正な人物へ、適正な量が販売されている状態」と考えられる。

 以上から、国税庁の任務である「酒類業の健全な発達」とは「”品質・安全性を保ちつつ、適正な人物へ、適正な量が販売されている状態”を維持したうえで、酒類業界を発達させる」と定義されると考えた。(言葉遊び的な要素も強そうだが国税庁自身がハッキリと定義していないため本稿ではこの定義で押し通すこととする。)

”健全”な状態を維持するための国税庁の取り組み

 ここで定義した”健全”な状態を維持するためには「品質・安全性を保つ」そして「適正な人物へ、適正な量が販売される」ことが必要である。そのために現在行われている取り組みを確認する。
 まず、「品質・安全性を保つ」ための取り組みについて調べた。国税庁では酒類に含まれる放射性物質や食品添加物、発がん性物質などの汚染物質の安全基準を設けており、実際に市販品を購入して検査もおこなっているとのことである。(国税庁:酒類の品質及び安全性の確保(https://www.nta.go.jp/taxes/sake/anzen/index.htm , 2022年 9月 4日 閲覧)より

 次に、「適正な人物へ、適正な量が販売される」ことに関して調べたが、国税庁の具体的な取り組みを見つけることはできなかった。一応適正飲酒推進のための周知・啓蒙活動は行われているが、適正飲酒を促す仕組みについては確認できなかった。国税庁が酒類の販売に対して意識しているのは”公正な取引かどうか”であり、最終的にどのような人物にどれだけの量を販売したのかについては感知していないと考えられる(というよりは誰がどの程度アルコール飲料を購入したのかについては調べようがないというのが現実であると思われる)。

「酒類業の健全な発達」のための課題

 前項までで「酒類業の健全な発達」を「”品質・安全性を保ちつつ、適正な人物へ、適正な量が販売されている状態”を維持したうえで、酒類業界を発達させる」と定義した。また、”健全”な状態を維持するために必要な「適正な人物へ、適正な量が販売される」ことへの取り組みが行われていない(行われていたとしても見つけることができない)ことを示した。

 以上から、現在の国税庁の取り組みでは酒類業界を発達させるための前提条件である「適正な人物へ、適正な量が販売される」という状態が作られていないと考えられる。酒類業界が発展するための土台ができていない状態で具体的な課題について議論しても意味がないと思われるため、「適正な人物へ、適正な量が販売される」という状態が作られていないことを課題とし、なぜそれを国税庁が解決しなければいけないのかについて考えることとした。

国税庁が「適正な人物へ、適正な量が販売される」ことはを目指すことの重要性

 アルコールには陰と陽の側面があることはあらためて語る必要はないだろう。アルコール依存症の治療などの陰の側面は厚生労働省が担当し、業界の発展や技術開発といった陽の側面は国税庁が担当してる。「適正な人物へ、適正な量が販売される」という状態はアルコールの陰の部分への対策である。ではなぜ陽の部分を担う国税庁がこれ成し遂げなくてはならないのか。それは酒類の流通が酒税法によって縛られている以上、流通に関与できるのが国税庁だけだからである。アルコールに関して厚生労働省はあくまでも流通後の不適切な飲酒にしか関与できない。だからこそ国税庁が「適正な人物へ、適正な量が販売される」という状態を目指さなくてはならない。

 以上が筆者が「酒業界の健全な発展」に必要だと考える要素である。

「サケビバ!」炎上に関する独り言

 最後になぜ「サケビバ!」が炎上したのか、個人的な感想を記して終わりたい。端的にいってしまうと原因はコミュニケーション不足だと思うのだが、なぜそれが起こってしまうのかを考えてみたい。

 ここまで火種が大きくなってしまった原因はTwitterというメディアの特徴が大きく関係していそうである。Twitterの特徴は拡散性である。そして、日本で古来から存在した「2ちゃんねる」のような掲示板と違い、言ったら言いっ放しが通用するメディアである。そして自ら検索することすら忘れたネットユーザーが善かれと思いさらに拡散され、当初の理念などというものは忘れ去れた全く別のメッセージが拡散する。国民総メディア社会?国民総伝言ゲーム社会の間違いだろ。だが、一番の問題は「サケビバ!」が炎上したあとの国税庁の対応であると思う。

 余談だが、ことの発端が「2ちゃんねる(現在は5ちゃんねる)」であれば良くも悪くも対話をする(というかある事ない事言いまくる)メディアなのでもう少しマシな感じに落ち着いたのかもしれない。そして著名人からもみつかりにくく大手のメディアで取り上げられることもなかったかもしれない。

 国税庁のホームページを見ると「サケビバ!」が炎上したことに関する反論の文章は全くない。国税庁側としては自分達の役割を果たしているだけであり、反論する必要はないということだろう。この歩み寄る姿勢を全く見せない、わかる奴だけにわかればいい態度が今の時代では通用しなくなっていると感じることがある。そもそも国税庁自身が「酒類業の健全な発達」という任務を言葉で説明できていないのである。もちろん職員の方々は共通のビジョンを持っているのだろう。だが、それが外野に伝わることはない。説明されていないのに理解しろというのはもう想像力の範囲を超えている。

 今回の一件は単純な娯楽として一瞬で消費されてしまったが、大衆は自ら調べる力の無さを、国税庁は説明する力の無さを示した心温まる一件ではあった。黙っていても情報だけは勝手に入ってくる現代社会において、情報を見極める力、自ら調べる力、説明する力を多くの人が持たないと誤った解釈が一人歩きしてしまうのだろう。